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仙台高等裁判所 昭和53年(ネ)201号 判決

主文

本件控訴並びに附帯控訴をいずれも棄却する。

控訴費用は控訴人ら(附帯被控訴人ら)の、附帯控訴費用は被控訴人ら(附帯控訴人ら)の各連帯負担とする。

被控訴人ら(附帯控訴人ら)の原判決の仮執行宣言に基づく給付の返還についての申立を棄却する。

事実

一  控訴人ら(附帯被控訴人ら、以下単に「控訴人ら」という。)代理人は、「原判決中控訴人ら敗訴部分を取り消す。被控訴人らは各自控訴人らに対し各二二四万六、九七〇円及び各内二〇九万六、九七〇円に対する昭和五〇年六月五日から完済まで年五分の割合による金員を支払え。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人らの負担とする。」との判決を求め、附帯控訴及び当審における原判決の仮執行の宣言に基づく給付の返還請求について「本件附帯控訴及び原判決の仮執行の宣言に基づく給付の返還の請求はいずれもこれを棄却する。附帯控訴費用は被控訴人らの負担とする。」との判決を求めた。

被控訴人ら(附帯控訴人ら、以下単に「被控訴人ら」という。)代理人は、「本件控訴を棄却する。控訴費用は控訴人らの負担とする。」との判決を求め、附帯控訴及び当審における原判決の仮執行宣言に基づく給付の返還の請求として、「原判決中被控訴人ら敗訴部分を取り消す。控訴人らの請求を棄却する。控訴人らは各自被控訴人十和田観光電鉄株式会社に対し各二六三万九、二六八円及びこれに対する昭和五三年五月二七日から完済まで年五分の割合による金員を支払え。訴訟費用は第一、二審とも控訴人らの負担とする。」との判決を求めた。

二  当事者双方の主張並びに証拠関係は次のように附加するほか、原判決事実摘示のとおりであるから、ここにこれを引用する。

(控訴人ら)

1  亡佳代子の逸失利益算定の基礎となる年間収入金額は賃金センサス(昭和五〇年度)の女子労働者の全年齢平均給与額によるべきものであり、これを同センサスの一八歳から一九歳までの女子労働者の平均給与額によるのは、女子を男子と差別し、かつこれを低きに抑えるもので不当である。

2  控訴人らが被控訴人十和田観光株式会社からその主張の金員を受け取つた事実は認める。

(被控訴人ら)

1  控訴人らの右主張事実を争う。

2  控訴人らは本件の仮執行宣言附第一審判決を得て被控訴人らの財産に対し仮執行の構えを見せたので、被控訴人十和田観光株式会社はやむなく控訴人ら代理人に対し、右判決により支払いを命じられた元金及び遅延損害金の合計五二七万八、五三七円を支払つた。しかしながら控訴人らが本件事故によつて蒙つた損害は自賠責保険金の受領により全額填補されており、従つて被控訴人十和田観光株式会社は控訴人らに対し本来支払う必要のない金員を支払つたことになる。

そこで被控訴人十和田観光株式会社は、控訴人らに対し民事訴訟法第一九八条第二項に基づき原判決の仮執行の宣言に基づく給付の返還義務の履行として、前記金員をすべて返還すべきものである。

よつて被控訴人十和田観光株式会社は、控訴人らに対し給付の返還請求として各二六三万九、二六八円及びこれに対する附帯控訴状送達の日の翌日である昭和五三年五月二七日から完済まで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める。

(証拠関係)〔略〕

理由

一  当裁判所も控訴人らの本訴請求は、被控訴人ら各自に対し各二三四万三、〇五七円及び各うち二一四万三、〇五七円に対する昭和五〇年六月五日から完済まで年五分の割合による金員の支払いを求める限度で正当としてこれを認容し、その余は失当としてこれを棄却すべきものと判断するものであるが、その理由は原判決の理由説示のとおりであるから、ここに右理由記載を引用する。

二  当審における控訴人杉山正治本人尋問の結果も右に引用した原判決の認定判断を左右するものではない。

三  なお控訴人らは亡佳代子の逸失利益算定の基礎となる年間収入は賃金センサスの女子労働者の全年齢平均給与額によるべく、かつ中間利息控除の方法としてはホフマン方式によるべきものである旨主張するところ、右はひつ竟逸失利益の算定方法に関する主張であるが、逸失利益はあくまでも将来の予測に関する事柄でこれを的確に捕捉することは困難であり、特に年少者の場合年長者、有職者に比しその収支ともに蓋然性に疑問の存するところから、被害者に不当に利益を与え、一方加害者に不当の損失を及ぼすことがないよう、できる限り被害者側に控え目な算定方法を採用するのが相当である(最判昭和三九年六月二四日、民集一八巻五号八七四頁参照。)。しかるところ控訴人らの主張する算定方法は右の観点からみていささか被害者側に傾く嫌いがあり適切な方法とは言い難いものがあるので、右主張は採用しない。

また被控訴人らは被害者が幼児の場合稼働能力取得までの間における養育費は前記損害額から控除されるべき旨主張するのであるが、幼児の財産上の損害賠償額の算定にあたりその将来得べかりし収入額から養育費を控除すべきものではないと解するのが相当である(最判昭和五三年一〇月二〇日。前掲最判昭和三九年六月二四日参照。)。のみならず本件の場合、被害者の逸失利益算定の基礎となる収入を初任給に固定しその収入の額を控え目に算出する方法によつているのであるから、もし養育費を控除すべきものとすればその支出の額だけを厳格にしかもより多額に計算することになり、適切な算定方法とは思われない。よつて右主張も採用しない。

四  よつて控訴人らの本訴請求は原判決の認容する限度で正当としてこれを認容すべく、その余は失当としてこれを棄却すべきものであるところ、これと同趣旨の原判決は相当で、本件控訴並びに附帯控訴はいずれも理由がないのでそれぞれこれを棄却することとし、なお原判決の変更を前提とする被控訴人らの原判決の仮執行の宣言に基づく給付返還の申立も理由がないことが明らかであるからこれを棄却し、民事訴訟法第三八四条、第九五条、第九三条、第八九条を各適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 佐藤幸太郎 武田平次郎 武藤冬士己)

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